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仙台地方裁判所古川支部 昭和42年(ワ)111号 判決 1969年9月02日

原告

菅原千代子

ほか四名

被告

宮城整備株式会社

ほか一名

主文

一、被告らは各自、原告菅原千代子、同菅原順子に対し、それぞれ金二八四万円およびこれらに対する昭和四二年一〇月一四日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、被告らは各自、原告菅原たか子に対し金二七〇万五、八一四円およびこのうち金二五〇万五、八一四円に対する昭和四二年一〇月一四日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三、被告らは各自、原告菅原重五郎、同菅原ゑしに対し、それぞれ金四〇万円およびこれらに対する昭和四二年一〇月一四日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

四、原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

五、訴訟費用はこれを一〇分し、その二を原告らの連帯負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。

六、この判決は一項ないし三項に限り仮に執行することができる。

事実

第一、当事者双方の申立

一、原告ら

(一)  被告らは各自、原告菅原千代子、同菅原順子に対し、それぞれ三〇九万円およびこれらに対する昭和四二年一〇月一四日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  被告らは各自、原告菅原たか子に対し、四一九万円およびこの内三九九万円に対する昭和四二年一〇月一四日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  被告らは各自、原告菅原重五郎、同菅原ゑしに対し、それぞれ五〇万円およびこれらに対する昭和四二年一〇月一四日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(四)  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

(五)  仮執行の宜言。

二、被告ら

(一)  原告らの請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二、原告らの請求原因および被告らの主張に対する答弁

請求原因として次のとおり述べた。

一、原告菅原千代子および同菅原順子は亡菅原重男の長女および次女、原告菅原たか子はその妻、原告菅原重五郎および同菅原ゑしはその実父および実母である。

二、菅原重男は、昭和四二年九月一二日午後九時二〇分ころ、栗原郡若柳町字川南上堤一七一番地先路上右側(北側)端に沿い西方に向い歩行中、後方から進行してきた被告佐々木六郎運転の小型四輪自動車(宮五な二七四五号、以下本件自動車という)にはねられて電柱に激突し、即時同所において内臓破裂により死亡した。右事故は、被告佐々木が、直線で完全に見通しのきく右路上を、酒に酔い、道路の左側端から右側端へ蛇行運転したところの過失に起因するものである。

三、被告宮城整備株式会社(以下被告会社という)は、自動車の修理および整備等を業としており、訴外長谷川タイヤ興業株式会社(以下訴外会社という)から本件自動車の修理を依頼されて保管中のところ、被告会社の従業員として整備工の職にある被告佐々木が、被告会社の業務のために本件自動車を運行中に前記事故を起こしたものであるから、被告佐々木は不法行為者として民法七〇九条により、被告会社は運行供用者として自動車損害賠償保障法三条により、各自損害賠償の責任がある。

四、本件事故により、重男および原告らの受けた損害は以下のとおりである。

(一)  菅原重男は、本件事故当時、若柳農業協同組合に勤務して購買課長の職にあり、月給四万七、〇〇〇円、過去一か年間の賞与二六万六、〇六九円を支給されていたから、同人の当時の一か年の収入は八三万〇、〇六九円であつたところ、その生計費はその約二〇パーセントを超えないところであつたから、同人の年間の純収入は六六万四、〇五五円となる。そして、重男は当時満四〇才(大正一五年一二月一〇日生)の健康な男子であつて、日本人男子満四〇才の平均余命は三一年余であるから、重男も右期間は生存し得たとみられ、また満六〇才まで就労可能であつた。そこで、その向後二〇年間の総収入をホフマン式計算方法に従い年五分の中間利息を控除して算出すると、九〇四万一、七七二円となり、これが、重男が本件事故によつて蒙つた損害である。原告千代子、同順子、同たか子は相続により右損害賠償債権を相続したところ、自動車損害賠償責任保険金三〇〇万円を受領したから、その差額六〇四万一、七七二円につき、それぞれの三分の一宛の相続分に応じ計算すると各自二〇一万三、九二四円となる。

(二)  菅原重男が前記事故により死亡した際の同人の受けた精神的損害は、受傷態様、程度等に照らし一〇〇万円が相当である。そして、原告千代子、同順子、同たか子は相続により右慰藉料債権を三分の一宛承継したので、これを計算すると各自三三万円となる。

(三)  原告たか子は夫重男の葬祭を行ない、その費用として一五万円を支出し、同額の損害を受けたが、被告佐々木からそのうち一〇万円の弁済を受けた。従つてその残額は五万円である。

(四)  原告たか子は、本件事故後、被告らに対し損害賠償を請求したが、被告らはこれに応ぜず、同原告は自ら訴訟提起の能力もないので、弁護士渡辺大司、同渡部修に委任して訴訟による請求手続をなさざるを得なかつた。そして、原告たか子は右弁護士らに手数料(着手金)として昭和四二年一〇月一日に一〇万円を支払い、かつ報酬(謝金)として二〇万円を支払う約束をした。

(五)  原告たか子は本件事故当時満三六才にすぎないのに、夫重男の死亡により、後にその余の原告ら四名を残されて、その精神的苦痛は大きく、右苦痛に対する慰藉料は一五〇万円が相当であり、原告千代子、同順子は当時満一六才および満九才で、これからの成長期を控えて父重男を失なつた精神的苦痛は各七五万円が相当であり、また、原告重五郎、同ゑしは同人らを同居し扶養させてくれた長男重男を失なつた精神的苦痛は各五〇万円が相当である。

五、よつて、原告千代子、同順子は各自右四の(一)記載のうちの二〇一万円、(二)記載の三三万円、(五)記載の七五万円、計三〇九万円およびこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和四二年一〇月一四日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、原告たか子は右四の(一)記載のうちの二〇一万円、(二)記載の三三万円、(三)記載の五万円、(四)記載の三〇万円、(五)記載の一五〇万円、計四一九万円およびこのうち三九九万円((四)記載の謝金二〇万円を除く)に対する同様昭和四二年一〇月一四日から同じく年五分の割合による遅延損害金、原告重五郎、同ゑしは右四の(五)記載の各五〇万円およびこれに対する同様昭和四二年一〇月一四日から同じく年五分の割合による遅延損害金の各支払をそれぞれ被告らに求めるものである。

被告らの主張に対し次のとおり述べた。

一、被告佐々木は運転免許は持つてはいないが、被告会社は被告佐々木に毎日のように修理車の試運転または修理のための工場への出し入れに必要な運転をさせていたものであり、本件事故当時の夜、宿直室において宿直員海山和政らと共に飲酒し、さらに酒を買いにゆくために、事務所の壁のところにかけてあつた本件自動車の鍵をとりだして運転するに至つたもので、海山もこれを承認していたものであるから、被告佐々木の右自動車の運転は客観的に見て被告会社の業務の執行であり、被告会社は運行供用者であるというべく、この点に関する被告らの後記主張は理由がない。

二、被告ら主張のとおり、原告たか子において退職金を受領したことは認めるが、退職金は本件事故とは関係なく支払われるものであり、また、原告たか子が被告ら主張のとおり遺族年金の支給を受けたことおよび今後右年金の支給を受けるべきこと(なお、年金は七万二、五〇〇円である)は認めるが、この年金は重男が一定の掛金をした対価的性質を有し、本件事故とは関係なく支払われるべきものであり、また、遺族に対する生活保障的なものであるから、いずれも損害賠償債権から控除すべきものではない。

第三、被告らの答弁および主張

答弁として次のとおり述べた。

一、請求原因一の事実は認める。

二、その二の事実中、菅原重男が原告ら主張の日時と場所において死亡したことは認めるが、その余の点は否認する。

三、その三の事実中、被告会社の業務の点は認める。被告会社が訴外会社から依頼を受けて本件自動車を保管していたことは認めるが、右は整備のためである。また、被告佐々木が被告会社の従業員であることは認めるが、同被告は整備見習工である。その余の点は否認する。

四、(一) その四の(一)の事実中、本件事故当時、重男が原告ら主張の組合に勤務して購買課長の職にあつたこと、同原告らがその相続人であり、その主張の三〇〇万円を受領したことは認めるが、その余の点は知らない。

(二) その(二)の事実は知らない。

(三) その(三)の事実中、原告たか子が重男の葬祭をしたこと、被告佐々木がそのうち一〇万円を弁済したことは認めるが、その余の事実は知らない。

(四) その(四)の事実中、原告たか子がその主張の理由により弁護士に本件訴訟を委任したことは認めるが、その余の点は知らない。

(五) その(五)の事実中、原告ら主張の年令の点は認めるが、その余の点は知らない。

主張として次のとおり述べた。

一、被告佐々木は、本件事故発生当日、午後五時の就業時間後に飲酒のうえ、無免許で、被告会社の宿直室から、宿直員海山和政が工場内を巡視した僅かの間に、本件自動車の鍵を無断で持ち出し、これを使用して本件自動車を運転したものであるから、右運転は被告会社の事業の執行につきなされたものではなく、運行供用者とはいえない。

二、仮に、損害賠償義務があるとしても、原告たか子は、重男の死亡により、前記組合から昭和四二年九月二〇日に退職金として一五〇万円を受領し、さらに重男の死亡のため、農林漁業団体職員共済組合法による遺族年金として昭和四三年九月一一日に七万円を受領し、以後昭和六二年九月一一日までに毎年七万円計一三三万円を受給し得ることとなり、これをホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除して算出すると九一万八、一二五円となる(なお、右遺族年金は七万二、五〇〇円であるが、七万円を超える額については主張しない。)から、以上合計二四八万八、一二五円は右たか子の損害賠償債権から差し引くべきである。

第四、証拠〔略〕

理由

一、事故の発生と被告佐々木六郎の責任

菅原重男が、昭和四二年九月一二日午後九時二〇分ころ、栗原郡若柳男字川南上堤一七一番地先路上において死亡したことは、当事者間に争いがない。

〔証拠略〕を総合すると、被告佐々木は、右日時右場所において、て西方に向い本件自動車を運転した際、飲酒による酔いのため正常な運転ができないおそれのある状態にあつたから、直ちに運転を中止すべく、また、当時降雨のため路面はスリップしやすい状態にあつたから速度を適当に調節すべきであるのに、酔いの勢いにまかせて漫然時速約六〇キロメートルで進行した過失のため、前方左側(南側)路上に駐車中の自動車を避けようとして道路右側(北側)に横滑りし、右側の溝に車の右後輪を落ちこませたまま突進し、折柄同所の道路右側を西方に向い歩行中の重男に追突し、重男を道路右端の電柱と車の右側との間で狭圧して内臓破裂等により同所で即死させたものであることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。従つて、被告佐々木は民法七〇九条により本件死亡事故により生じた損害を賠償すべき義務がある。

二、被告会社の責任

被告会社が自動車の修理および整備等を業としているものであること、本件事故当時、訴外会社から依頼を受けて本件自動車を保管していたこと、被告佐々木が被告会社の従業員であることはいずれも当事者間に争いがなく、菅原重男の死亡が被告佐々木の本件自動車の運行によつて生じたことは前記認定のとおりである。

〔証拠略〕を総合すると、被告佐々木は昭和三九年四月に自動二輪車の運転免許を取得し、昭和四一年三月一〇日に被告会社に自動車整備工として雇傭され、自動車の整備、点検等に従事し、そのため日常自動車の運転をしていたものであるが、本件事故当日午後五時の就業時間終了後、被告会社宿直室の隣の事務室において、宿直員海山和政らと共に飲酒していたが、さらにビールを追加購入しようとしたこと、ところで、当時、被告会社は訴外会社から本件自動車の整備を依頼されてこれを保管し、その鍵を右事務室の壁に他の自動車の鍵とともにかけておき、就業時間後は宿直員において保管していたのであるが、別に施錠設備もなく、誰でも容易にこれを持ち出し得る状態にあつたこと、そこで被告佐々木はビール購入のため酒屋に赴こうとして本件自動車の鍵を取り出し、海山もこれを知りながら制止せず、被告佐々木は右鍵を使用し、直ちに本件自動車を一時的に運転し、前記事故を起こすに至つたことが認められ、右認定に反する〔証拠略〕は採用し難く、その他これをくつがえすに足りる証拠はない。そうすると、被告佐々木が私用のために本件自動車を運転したものであつても、前記のように短時間に帰ることを予定していること、被告会社と被告佐々木間には雇傭関係が存在し、被告佐々木は日常自動車を運転し、また、被告会社の自動車および鍵の管理状況も被傭者をして無断で自動車を使用することを容易ならしめるような状態にあつたこと等からして、被告会社は外形上本件自動車の運行を支配し、その利益を享受すべき地位にあつたものというべきである。被告らの、被告会社は運行供用者でないとの主張は採用できない。従つて、被告会社は自動車損害賠償保障法三条により、本件事故により生じた損害を賠償すべき義務がある。

三、重男と原告らとの身分関係

原告千代子、同順子が菅原重男の長女および次女、原告たか子がその妻、原告重五郎および同ゑしがその実父および実母であることは争いがない。

四、本件事故により重男および原告らの受けた損害額

(一)  重男の得べかりし利益の喪失による損害および原告らの相続菅原重男が本件事故当時、若柳農業協同組合に勤務して購買課長の職にあつたことは当事者間に争いがない。〔証拠略〕によれば、重男は本件事故当時満四〇才(大正一五年一二月一〇日生)の健康な男子であつて、月給として四万七、〇〇〇円(基本給四万一、五〇〇円、管理職手当四、〇〇〇円、家族手当一、五〇〇円、なお〔証拠略〕により、右家族手当のうち、子供に対しては一人三〇〇円で満一八才を超えると打ち切られることが認められるが、同証言により認められる毎年の昇給分を考えれば、右四万七、〇〇〇円は増額こそすれ、減少することはないと考えられる。)および過去一年間の賞与として二七万六、四五〇円(昭和四一年一二月に一二万二、三〇〇円、昭和四二年三月に六万〇、一五〇円、同年六月に九万四、〇〇〇円)を支給されていたから、重男の年間収入は八四万〇、四五〇円であり、同人個人の生計費としては原告ら主張のとおり右収入の約二〇パーセントを超えないところであつたから、これを差し引くと結局少なくともその主張のとおり年間六六万四、〇五五円を下らない実収入を得ていたものというべく、しかして満四〇才の普通の男子の平均余命年数が第一一回生命表によれば三一年余であつて、重男も右期間は生存し得たであろうと思われ、また、原告ら主張のとおり少なくとも満六〇才までは就労可能であろうと考えられるので、向後二〇年間の総収入をホフマン式計算により法定利率年五分の割合による中間利息を控除して算出すると九〇四万一、八一八円となるから、重男は同額の損害を受けたものということができ以上の認定を左右するに足りる証拠はない。しかして、原告千代子、同順子、同たか子は相続人として右損害賠償債権を相続したから、それぞれの三分の一宛の相続分に応じ計算すると、各自三〇一万三、九三九円となる。

(二)  退職金および遺族年金についての判断

(1)  ところで、被告らは、原告たか子が受領した重男の退職金を控除すべきであると主張するが、しかし、退職金は退職により当然に支給されるもので、本件損害賠償の原因と同一の原因に基づくものでないことは勿論、損失を填補するものでもないから、控除すべきものではなく、これを控除しないからといつて衡平の原則に反するものではないと考えられる。従つて、右主張は採用できない。

(2)  次に、被告らは、原告たか子につき、農林漁業団体職員共済組合法による遺族年金を控除すべきであると主張するので検討する。重男が、本件不法行為によつて受けた財産上の損害中には、同人の就労可能な期間中に得べかりし給料を喪失したものとしての額が包含されているところ、原告たか子はこれを相続により承継し、それと同時に、重男の死亡により遺族年金の受給権を取得したのであるが、このような場合においては、原告たか子が請求できる損害賠償額の算定にあたつては、右給料を得べかりし期間に受給する遺族年金額を控除すべきものと解するのが相当である。けだし、給料喪失による損害賠償債権と遺族年金受給権とは、その発生時における原因および権利主体において異なるものがあるとはいえ、元来給料と遺族年金とは同時に併存すべき関係にはなく、また、右両債権は共に損害填補の目的を有するところ、相続により実質的に同一人に帰属することとなることを考慮すれば、前記のように遺族年金を控除することが、衡平の原則に合致するものというべきであるからである。なお、遺族年金を受給するためには一定の掛金を必要とするが、その性質および額に徴し、これをもつて遺族年金に対する真実の対価に相当するものとは解せられない。しかして、原告たか子が受給し、また受給すべき遺族年金を被告ら主張の範囲において計算すると、昭和四三年九月一一日に受領した七万円に、以後重男が給料を得べかりし昭和六二年までの間、毎年七万円の割合による計一三三万円をホフマン式計算により法定利率年五分の割合による中間利息を控除して算出した九一万八、一二五円を加えると、合計九八万八、一二五円となるから、これを原告たか子の損害賠償債権から控除すべきである。従つて、この点に関する被告らの主張は理由がある。

(三)  そうすると、原告たか子は、前記(一)の三〇一万三、九三九円から右(二)の(2)の九八万八、一二五円を控除した二〇二万五、八一四円(給料喪失の損害賠償額が遺族年金額より多額となることは明らかであるので、特にこれを計算しない。)を財産的損害賠償額として請求できることとなる。ところで、原告たか子、同千代子、同順子が自動車損害賠償責任保険金三〇〇万円を受領したことはその自認するところであるから、これを差し引くと、原告たか子は一〇二万五、八一四円、原告千代子、同順子は各自二〇一万三、九三九円となる。

(四)  重男の慰藉料と原告らの相続

重男が受けるべき慰藉料は、本件事故の原因、態様、重男の年令、職業その他の事情に照らし、一〇〇万円が相当であり、これを原告千代子、同順子、同たか子は相続人として当然に三分の一宛承継したので、これを計算すると原告ら主張のとおり各自三三万円となる。

(五)  重男の葬儀費用

原告たか子が夫重男の葬祭をなしたことは、被告らの認めるところであり、〔証拠略〕によれば、たか子は昭和四二年九月一五日なした葬儀の費用として一五万円を下らない支出をしたことが認められ、これに反する証拠はないから同額の損害を受けたものであるところ、被告佐々木からそのうち一〇万円の弁済を受けたことは同原告の認めるところである。従つて、その残額は五万円である。

(六)  原告らの慰藉料

本件事故当時、原告たか子が満三六才、原告千代子は満一六才、原告順子は満九才であることは被告らの認めるところであり、〔証拠略〕によれば、重男を生活の中心にして原告ら家族が同居し、幸福な生活を送つてきたところ、本件事故により一朝にして重男を失ない、事故当時の原告らの精神的打撃ははかり知れないものがあるうえに、原告たか子は老父母と幼児二名を残されて精神的苦痛は大きく、原告千代子、同順子はこれからの大切な成長期を控えて心の支えを失ない、また、原告重五郎、同ゑしは長男重男を事故により失ない悲歎にくれていることが認められ、これに諸般の事情を考慮すれば、原告たか子に対する慰藉料は一〇〇万円、原告千代子、同順子に対する慰藉料は各五〇万円、原告重五郎、同ゑしに対する慰藉料は各四〇万円をもつて相当と認める。

(七)  弁護料

原告たか子が弁護士渡辺大司、同渡部修に本件訴訟提起のため弁護を委任したことは被告らの認めるところであり、〔証拠略〕によれば、原告たか子らは被告らに対し本件事故による損害賠償を請求したところ、被告らの示す金額は余りにも少額であり、通常の折衝では支払を受けられないため、権利防衛上、訴の提起を余儀無くされたが、その能力がないため、右弁護士らに委任し、昭和四二年一〇月ころに手数料(着手金)として一〇万円を支払い、本件訴訟終了後報酬(謝金)として二〇万円を支払う約束をしたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。しかして、右程度の弁護士費用は、本件訴訟の性質、その請求額および認容額、その他諸般の事情にかんがみて相当であると考えられる。

五、以上説示のとおりで、本訴請求は、被告らに対し、各自、原告千代子、同順子として右四の(三)記載のうちの二〇一万円、同(四)記載の三三万円、同(六)記載の五〇万円の計二八四万円およびこれに対する本件訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和四二年一〇月一四日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金、原告たか子として、右四の(三)記載の一〇二万五、八一四円、同(四)記載の三三万円、同(五)記載の五万円、同(六)記載の一〇〇万円、同(七)記載の三〇万円計二七〇万五、八一四円およびこのうち二五〇万五、八一四円に対する同様昭和四二年一〇月一四日から年五分の割合による遅延損害金、原告重五郎、同ゑしとして、右四の(六)記載の四〇万円およびこれに対する同様昭和四二年一〇月一四日から年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当として認容すべきも、これを超える部分については失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大沢博)

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